飴と煙

 私がある飴を食べるようになって、かれこれ10年が経とうとしている。飴を食べるということが長年続いているのは不思議なものである。

 私がその飴を初めて食べたのは、それはそれはいい女に勧められたから他ならない。顔がいいというわけでも足がいいというわけでも腕がいいというわけでもない。

 ただ、好みの女であった。

 甘い匂いのする煙草を吸うような女で、ふわりと煙と一緒に消えるのではないかというような儚さが印象的な人だ。

 一服する彼女を見ているある日、ポケットから出した飴をもらった。私が彼女から貰った初めてのキャンディーというわけだ。

 その味はただただ甘いなんの変哲もない飴だった。特徴的なのは見た目で、デカい上に綺麗だった。宝石か何かと見まごうような綺麗な飴。今でも買う時に少しワクワクしてしまう自分がいる。

 急に出された飴に戸惑って私は聞いた。

「何故飴を?」

「私が煙草吸ってるので、まあ似てるかなぁと」

 そんな風に言って笑って、困ったような笑みを浮かべて、吸った煙を吐く、ふぅっと。

 なにを言ってるのかは当時はわからなかったが煙草を吸うようになってなんとなくわかるようになった、口寂しさが紛れるのだなと。

 今日も私は煙草を吸ったり、吸わなかったりしている。今日も彼女は何処かで煙を吐いているのだろうか。そんな取り留めのないことを考えながら。